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8.詩の定義について

詩の定義について

 詩とは何でしょうか。ある人は、「詩とは、文字で書かれたものであり、行分けになっていて、読む者を感動させるものである」と定義するかもしれません。ですが、「視覚詩」の一種は文字で書かれていず写真やオブジェを使っていますし、散文詩もありますし、読む者を一向に感動させない詩もあります。上述した定義では、全ての詩を定義することができていないのです。
 「詩であるならば満たしている条件」を詩の「必要条件」、「これらの条件を満たしていれば詩である、そういう条件」を詩の「十分条件」と言います。必要条件とは、詩であるならば満たしている最低条件であり、十分条件とは、詩を他のものから区別し特徴付けるための条件です。例えば小説というものを考えてみましょう。あらゆる小説は文字で書かれているので、小説であるならば文字で書かれていると言えます。よって、「文字で書かれている」ことは小説の必要条件です。また、例えば「くちばしがある」「卵を産む」「足が二本ある」という条件を満たせば、それは鳥であると言えます。よって、上の三つの条件はそれらが合わさることで鳥であることの十分条件となります。
 詩の定義を試みようとする人は、詩の必要条件でありかつ十分条件であるような条件(必要十分条件)を探そうとします。ところが、一番先に掲げた定義のような、詩についての十分条件は存在しますが、詩についての必要条件は存在しません。全ての詩が文字で書かれているわけでもないし、行分けであるわけでもないし、読む者を感動させるわけでもないのです。だから、「文字で書かれている」「行分けである」「読む者を感動させる」は詩の必要条件ではありません。よって、詩を必要十分条件で定義することは不可能だと思われます。
 では「詩」という概念はどのような構造をしているのでしょうか。上述したように、「詩」という言葉で指示される要素の全てが満たしている特徴はありません。ですが、ある要素と別の要素は一定の類似性によって関係付けられています。全ての要素をつなぐ類似性はありませんが、部分的に要素同士をつなぐ類似性は複数存在します。
 ここで、「家族的類似性」という考え方を紹介します。これはヴィトゲンシュタインがドイツ語のSpiel(日本語だったら「ゲーム」)という言葉の構造を分析したときに提唱したものです。ここにAさんとBさんとCさんがいるとします。AさんとBさんは目が似ている。BさんとCさんは鼻が似ている。でも、AさんとCさんはどこも似ていない。だからAさんとBさんとCさん全てに共通する特徴は存在しない。それでもAさんとBさんとCさんはひとつの家族の中にいる。このような要素間の類似性のあり方を家族的類似性といいます。
 同じように、Aという詩は「文字で書かれているが鑑賞者を感動させない」、Bという詩は「文字で書かれていて鑑賞者を感動させる」、Cという詩は「文字で書かれていないが鑑賞者を感動させる」とします。AとBは「文字で書かれている」という類似性でつながっています。BとCは「鑑賞者を感動させる」という類似性でつながっています。でも、AとCに共通する特徴はありません。それゆえ、A、B、C、すべてに共通する特徴はありません。それでも、A、B、Cはひとつの「詩」という概念でくくられています。詩を必要十分条件で定義することはできませんが、詩という概念に含まれている要素間を部分的につなぐ類似性ならいくつか存在します。その類似性として、「文字で書かれている」「鑑賞者を感動させる」などがあるのです。詩の概念には家族的類似性があるに過ぎないのです。
 詩という概念に含まれている要素(個別の詩)を部分的につなぐ類似性としては、ほかにも、「行分けである」「レトリカルである」「短い」「主観的である」などがあります。これらの特徴をより多く備えている詩が、典型的な詩であるといえるでしょう。それに対して、これらの特徴を一つや二つしか満たしていないような詩は、非典型的な詩であるといえます。詩の中には、誰もがそれを詩と認めるような典型的な詩と、一部の人はそれを詩と認めないような非典型的な詩があり、典型性の度合いは様々です。ですが、典型的な詩だけを「詩」と呼ぶことはできず、実際「詩」という概念は非典型的な詩もその要素として含んでいます。
 「詩とは何か」という問いは、詩の必要十分条件を求めているのだと思われますが、詩の必要十分条件は存在しません。その意味では、「詩とは何か」という問いには答えがないと言えますし、詩は定義できないと言えます。かわりに、「詩」という概念に含まれている個別の詩どうしを「部分的に」つなげている類似性は複数存在し、その類似性を多く備えている詩は典型的であり、その類似性を余り備えていない詩は非典型的です。「詩」という概念は、「定義」の観点ではなく「家族的類似性」の観点からとらえなければならないと思われます。
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by sibunko | 2012-10-25 02:30 | 初心者への詩論(詩と向き合う)